最前線コラム

複雑化する自動車開発を効果的に進める MBSE と要求仕様の品質向上サービス【SOLIZE Engineering】

自動車開発の複雑化に対するMBSE の有効性とその課題

 先進運転支援システム(ADAS)や自動運転など、自動車に多くの機能が求められる現在、その開発はますます複雑化しています。複雑化する開発を効果的に進める方法として注目を集めているのが、モデルベースシステムズエンジニアリング(MBSE)です。 MBSE によりシステムをモデルで表現することで、文書ベースの開発手法に比べてコミュニケーションの曖昧さを排除し、複数の視 点からシステムを捉えることが容易になります。
 ただし、MBSE を導入すれば必ず効果が現れるわけではありません。MBSE のモデリングには多くの場合モデル記述言語SysML が使われますが、SysML は汎用的なシステムモデル記述言語であり自由度が非常に高いため、どのようなモデルをどこまで詳細に記 述するべきか決められない、モデルが多くなりすぎて結果的に何を記述しているのか分からない、等の課題が生じています。

豊富な経験にもとづく独自のMBSE 方法論

 SOLIZE Engineering はモデリング、シミュレーション、制御設計を核としたフランスのエンジニアリング企業SHERPA Engineering 社(以下、SHERPA)と提携し、MBSE を効果的に進めるためのツールを提供しています。SHERPA はフランスの二大自動車メーカーをはじめとする多数のシステムズエンジニアリング経験があり、その中で独自のMBSE 方法論を確立しています。
 例えばこの方法論では、複数のビューで共通化したモデリング手法を採用することにより、各ビューでのモデルの複雑さをそろえた 記述がしやすくなっています(図1)。

図1:SHERPA Engineeringが独自に持つ方法論

システムモデリングとSimulink シミュレーションをつなぐMBSE ツール PhiSystem

 そのMBSE の方法論を盛り込んでつくられたソフトウェアが、MBSE ツール「PhiSystem」です。PhiSystem を使うことにより、MBSE の目的、機能、構造といった各ビューで必要なモデルを標準化し、適切に切り分けながらトレーサビリティを保つことができるため、モデルをどこまで詳細に記述するかが把握しやすくなり、システム全体のアーキテクチャを把握することが容易になります。
 PhiSystem のもう一つの特徴が、機能レベルでのシミュレーションです。PhiSystem では機能ユニットと呼ばれる独自の機能表現が定義されています。機能ユニットを機能ビューでのモデリングに活用することで、詳細な構造を定める前の機能モデリングの段階でSimulink と連携することができます。従って、開発の早い段階でのシミュレーションが実現でき、開発の手戻りを低減させることが可能です(図2)。

図2:SysMLで記述した論理モデルからすぐにシミュレーションを実行することができる

プロジェクトの成功の鍵を握る要求仕様の品質

 MBSE により開発が効率的に進むようになっても、開発プロジェクトの要求仕様の品質が劣っているとプロジェクトを成功させることは困難です。要求仕様に問題があることの発見が遅れれば遅れるほど開発コストの増加、開発期間の延長など様々な修正を余儀なく されます。
 そのような中、要求が持つべき特性を挙げた国際標準が様々な分野で公開されており、要求仕様の品質に対する関心度は世界的にも 高まっています。
 日本の開発現場においても、要求仕様の品質に関するニーズは確実に高まっており、膨大な数の要求を抜け漏れなくチェックしたい、要求の一貫性をチェックしたい等の要望が多く聞かれます。

要求仕様の品質向上をサポートするソリューション

 SOLIZE Engineering は、スペインのThe REUSE Company(以下TRC)と提携し、要求仕様の品質向上をサポートするツールと サービスの提供を開始しました。
 提供するツール「Requirements Quality SuiteTM( RQS)」はTRC によって開発され、欧州を中心に多くの導入実績があります。これまでは、主に航空宇宙や防衛分野において導入されてきましたが、最近は自動車にも適用が進み、フランスやドイツなどの大手自動車メーカーや自動車部品メーカーからも注目を集めています。

要求仕様品質向上のための実現方法

 RQS では、数ある要求品質の特徴の中から、定量化して評価できる3 つの指標を使って要求品質を評価します。3 つの指標とは、正確性(Correctness)、完全性(Completeness)、一貫性(Consistency)であり、これらの頭文字をとって、CCC アプローチ と呼んでいます。
 この評価を実現するのは、自然言語処理を活用した意味解析(Semantic Analysis)の技術です。RQS で定義できるオントロジーを活用して要求文書を言語処理的に分析することで、その要求が表す「意味」を把握し、正確性、完全性、一貫性をチェックすることができます。
 RQS は要求仕様の品質評価ツール「Requirements Quality AnalyzerTM(RQA)」、要求記述支援ツール「Requirements Authoring ToolTM (RAT)」、言語処理に必要なオントロジーを管理する「Knowledge ManagerTM( KM)」の3 つのツールから構成されています(図3)。

図3:RQS を構成する3 つのツール

 これらのツールを用いて、要求記述の定義、計測、管理を反復的に行い、要求仕様の品質を向上させます。また要求管理ツールとも連携し、現在はIBM のDOORS® やPTC IntegrityTM のプラグインとして利用することが可能です。次のバージョンではSysML ツー ルとの連携も強化される予定です。
 導入の際はほとんどの場合、概念検証(Proof of Concept)を用います。概念検証では、お客様の既存の要求仕様に対して品質を評価し、問題がある箇所を特定· 修正し、再評価を繰り返すことでツールの効果が確認できます。この間に、ツールの使い方が習得できると同時に、要求の品質評価に必要なデータベースが構築されるため、概念検証終了後はお客様がスムーズにツールを運用することができます。以下は概念検証を使ったRQS 導入例です(図4)。

図4:概念検証を使ったRQS 導入例

おわりに

  SOLIZE Engineering はTRC、SHERPA と連携し、日本のお客様の開発現場における要求仕様の品質向上、システムズエンジニアリングやシミュレーションの支援を行っています。海外での取り組みや豊富な経験を活用しながら、日本の開発現場に適した形での ツールおよびサービスを提供しています。


URL https://www.solize-group.com/mbd/

2017年5月1日発行
次世代自動車技術最前線2017より転載

  


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